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掲載日2021.01.10
2021.01.10

ボタニカルアート展こぼれ話①「江戸時代の薬用植物」

令和2年12月5日から、科学館3階の企画展示ホールで「植物画の世界~ボタニカルアート展~」を開催しました。ボタニカルアートグループ「花も実もある会」のみなさんによる、薬用植物を描いた作品27点を展示しました。


写真1 ボタニカルアート展のようす

薬用植物といえば、みなさんはどんな植物を思い浮かべますか?作品の中から例を挙げると、ハス、アロエ、カリン、ミカン、ドクダミなどがあります。


写真2 乾燥させたミカンの皮(薬用では陳皮(ちんぴ)とも呼ばれる)

薬用植物に関する研究は中国において古くから発達し、「本草学」と呼ばれました。本草とは、薬のもととなる草を意味します。原本は散逸し、編者も定かではありませんが、1~2世紀のころに成立したとされる『神農本草経』が中国最古の本草書とされています。
日本でも本草学は古代以来続けられてきましたが、大きく発達したのは江戸時代になってからです。『大和本草』(貝原益軒)、『本草綱目啓蒙』(小野蘭山)、『本草図譜』(岩崎灌園)といった本草書や図譜が多く出版されました。

江戸時代の広島でも、薬用植物の調査研究が行われ、本草書が作られています。どんな内容でしょうか。

『山県草木志』(やまがたそうもくし)

『山県草木志』は、安芸国山県郡有田村(現広島県山県郡北広島町)の医師、小田好道が、天明元年(1781年)に広島藩に差し出した本草書です。山県郡を中心に、身の回りの植物を丹念に調べ、445種の植物について解説しています。
この書物の特徴は、地方の医師が自分で山野を歩いて観察、採集し、地元の人に聞いた事実を記しているところです。地元での呼び名や、食物や薬物としての利用法、効能などが記録されています。

小田好道について

享保5年(1720年)、山県郡に代々続く医者の家庭に生まれました。11歳のときに父と兄を亡くした好道は、独学で医学を勉強して医師になりました。性格は思いやりが深く、正直者。村の人々に慕われました。読書家で、自分でも多くの本を書き、67歳でこの世を去りました。
好道のあとをついだ息子もまた、貧しい人々への治療に力を尽くしたということです。

江戸時代の診療のようす


『芸備孝義伝. 第2編 巻3,4 』 国立国会図書館デジタルコレクションより

この絵は、当時の山県郡土橋村(現北広島町)で村人たちを診療する医師の親子の姿です。昔の医師は、患者を診察して、治療のための薬も自分で調合していました。そのため、薬の原料となる薬用植物についても知識が必要でした。

絵の右側後ろにたくさんの引き出しがついた「百味だんす」が見えます。この中に薬用植物や動物、鉱物に由来する、さまざまな生薬を保管していました。

写真3は広島城が所蔵している百味だんすです。大中小の引き出しが合計70個ついていますね。引き出しには、中にどんなものが入っているのか分かるように、薬の名前を書いたふせんが貼られています(写真4)。写真4は、正確にはわかりませんが、「粟 穀」と書いてあるように読めます。


写真3 百味だんす(広島城蔵)


写真4 百味だんすに貼られたふせん(広島城蔵)

絵の左側奥にほんの少し見えているのは、「薬研(やげん)」と呼ばれる道具です。薬用植物などを細かくすりつぶして薬を作るために用いられます。
広島市郷土資料館には薬研の実物があります(写真5)。長さは50㎝ほど、鉄でできているためとても重いです。舟形の器に生薬を入れ、車輪についている取っ手を握って、前後に転がします。車輪の重みで押し砕くようにするそうです。

舟形の溝の断面を見てください。深いV字になっているのがわかりますか。お城などを囲む堀で、「薬研堀」という堀があります。広島市内にも地名として残っていますね。薬研堀は底がV字形になった堀のことをいい、この道具と形が似ているためそう名付けられたそうです。


写真5 薬研(広島市郷土資料館蔵)

広島市内の薬用植物園

西区三滝本町にある「日渉園跡」は、寛政10年(1798年)に広島藩の藩医である後藤松眠(しょうみん)が開園した藩営の薬草園跡です。園の中心には住居と庭園があり、その周囲に薬草地が広がっていました。昭和62年に広島市指定史跡となっており、平成12年に広島大学に譲渡されています。
また、広島県の観光名所であり市民の憩いの場でもある名勝「縮景園」は、広島藩浅野家初代藩主 浅野長晟(ながあきら)が別邸の庭園として築成した大名庭園です。園内の一画には「薬草園」が整備されており、数々の薬草を見ることができます。
さらに、広島大学薬学部附属の「薬用植物園」は、研究用に多様な薬用植物を栽培し、植物の成分分析など広く薬用植物についての研究が行われています。事前予約制で一般見学もできるようです。

今回ご紹介した『山県草木志』の復刻版(広島市立中央図書館編,1992)は図書館で借りることができます。興味のある方は読んでみてください。

主な参考資料
広島市立中央図書館編『山県草木志』1992
広島市郷土資料館編『特別展展示図録 ひろしま 近代医学のあけぼの』2006
主な参考ウェブサイト(最終閲覧日2021年1月10日)
くすりの博物館
ひろしま昔探検ネット
広島大学医学部附属施設「日渉園」
広島大学薬学部附属施設「薬用植物園」